「起きられない」と「起きているけどつらい」その違いを医学から考える
「何度起こしても、なかなか起きてこない」
「朝になると頭が痛いと言うのに、夕方には元気になっている」
「学校には毎日行っているけれど、朝はいつもつらそう」
子育てをしていると、このような経験をすることがあるのではないでしょうか。
朝起きられない子どもに対して、私たち大人はつい「もう少し早く寝ればいいのに」「生活習慣を直さないと」「気持ちの問題ではないか」と考えてしまいます。
もちろん、睡眠時間や生活習慣は大切です。
しかし、朝が苦手な子どもの身体では、本人の努力だけではどうにもならない変化が起きている場合があります。
そして、それは学校に行けていない子どもだけの問題ではありません。
毎朝、何とか起き上がり、無理をして学校に通っている子どもの中にも、身体の不調を抱えている子がいるかもしれないのです。
今回は「朝が苦手な子どもの身体で起きていること」をテーマに、医学的な仕組みをできるだけわかりやすく考えてみたいと思います。
1.そもそも、人間はどうやって朝起きているのか?
私たちは普段、目覚まし時計が鳴れば起きられることを当たり前のように考えています。
しかし、実は「朝起きる」という行動には、脳や神経、ホルモン、心臓、血管など、さまざまな身体の働きが関係しています。
例えば、朝目覚めるとき、身体では次のようなことが起こっています。
① 脳が眠りから覚醒へ切り替わる
脳には、眠りを促す仕組みと、目を覚まして活動を維持する仕組みがあります。朝になると、体内時計の働きなどによって覚醒しやすい状態へと移行します。
② 体内時計が朝を認識する
人間の脳には、約24時間の周期で身体のリズムを調節する仕組みがあります。
朝の光を浴びることで体内時計が調整され、睡眠や覚醒に関わるホルモンの分泌にも変化が生じます。
③ 自律神経が身体を活動できる状態に調節する
自律神経は、心拍数や血圧、消化などを無意識のうちに調節しています。
横になっていた身体を起こすと、重力によって血液が下半身に移動します。通常は自律神経が心拍数や血管の収縮を調節し、脳に必要な血液を送り続けます。
つまり、朝起きるという何気ない行動は、身体のさまざまな機能が協力することで成り立っているのです。
では、その仕組みのどこかがうまく働かなかったら、どうなるのでしょうか。
2.朝起きられない原因① 自律神経がうまく働かない
小学校高学年から中学生にかけて、特に知っておきたい病気の一つが「起立性調節障害(OD)」です。
起立性調節障害は、立ち上がったときの血圧や心拍数などを調節する自律神経の働きがうまくいかず、さまざまな症状が現れる状態です。
例えば、朝起き上がろうとしたとき、下半身に移動した血液を補う調節が十分に働かないと、脳への血流が低下して、めまいや立ちくらみ、気分の悪さなどが生じることがあります。
また、血圧の低下が目立たなくても、心拍数が過剰に増えるタイプなどがあります。
主な症状には、次のようなものがあります。
- 朝、なかなか起き上がれない
- 立ち上がるとめまいや立ちくらみがする
- 頭痛や吐き気がある
- 身体がだるく、疲れやすい
- 午前中は調子が悪く、午後になると元気になる
ここで注目したいのが、午前中と午後で体調が大きく変わることがあるという特徴です。
朝は布団から出ることすら難しかった子どもが、夕方には友達と遊んだり、ゲームを楽しんだりしている。
その様子を見ると、大人は「本当は元気なのではないか」と思ってしまうかもしれません。
しかし、起立性調節障害では、時間帯によって症状が変化することがあります。
夕方に元気であることは、朝のつらさが嘘だったことを意味しません。
もちろん、朝が苦手だからといって、すべての子どもが起立性調節障害というわけではありません。診断には医師による診察や検査が必要です。
3.朝起きられない原因② 脳の体内時計がずれている
次に考えたいのが「体内時計」です。
人間には、夜になると眠くなり、朝になると目覚めやすくなる仕組みがあります。
この仕組みの中心にあるのが、脳の視交叉上核という部分です。
ところが、思春期になると、身体の成長に伴って睡眠の時間帯が後ろにずれやすくなります。
つまり、小学生の頃は午後9時に眠くなっていた子どもが、中学生になると同じ時間にはなかなか眠れなくなることがあるのです。
さらに、夜間の強い光、スマートフォンの使用、生活リズムの乱れなどが重なると、体内時計がより遅い時間にずれてしまうことがあります。
このずれが持続し、日常生活に大きな支障をきたす場合には「睡眠・覚醒相後退障害」という睡眠障害が考えられます。
例えば、身体が自然に眠れる時間が午前3時、起きられる時間が午前11時になっている子どもを想像してみてください。
その子にとって、学校に行くために午前6時30分に起きることは、体内時計の上では、まだ夜中に起こされるような状態になり得ます。
「早く寝なさい」と言われても、眠気が来なければ簡単には眠れません。
これは単に意志の弱さだけで説明できる問題ではないのです。
ただし、慢性的な夜更かしによる睡眠不足と、睡眠・覚醒相後退障害は同じものではありません。生活習慣や睡眠の経過を丁寧に確認する必要があります。
4.朝起きられない原因③ 睡眠時間が足りていない
ところで、小中学生には、そもそも何時間の睡眠が必要なのでしょうか。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、睡眠時間の目安として次のように示されています。
- 小学生:9〜12時間
- 中学生・高校生:8〜10時間
例えば、中学生が朝6時30分に起きる場合、8時間眠るためには午後10時30分には眠っている必要があります。
9時間なら午後9時30分です。
しかし、現実にはどうでしょうか。
部活動を終え、帰宅して夕食を食べ、宿題をして、お風呂に入り、少しスマートフォンを見ているうちに午後11時を過ぎてしまう。
そんな生活を送っている子どもも少なくないと思います。
仮に毎日必要な睡眠時間より1〜2時間短い生活を続ければ、睡眠不足が蓄積していく可能性があります。
これを一般に「睡眠負債」と呼びます。
睡眠不足が続くと、朝の目覚めだけでなく、集中力や記憶、感情のコントロールにも影響することがあります。
授業中にぼんやりしている子どもや、些細なことでイライラする子ども。
その背景に、睡眠不足が隠れている可能性もあるのです。
また、睡眠時間が十分でも、いびきや睡眠時無呼吸などによって睡眠の質が低下している場合があります。
「長く寝ているから大丈夫」とも限らないのです。
5.朝起きられない原因④ ストレスが身体に影響している
ここまで身体の仕組みを中心に説明してきましたが、心と身体は切り離せません。
人間はストレスを感じると、自律神経やホルモンの働きが変化します。
緊張や不安が続くことで、眠りにくくなったり、夜中に何度も目が覚めたり、朝に頭痛や腹痛が現れたりすることがあります。
例えば、学校での人間関係や勉強への不安、部活動のプレッシャーなどが、睡眠や身体の調子に影響することも考えられます。
ただし、ここで気をつけたいことがあります。
ストレスが関係していることと、症状が気のせいであることは、まったく違います。
心理的な負担が身体の症状として現れることは、医学的にも知られています。
また、ストレスが原因なのか、身体の不調が続くことでストレスが強くなっているのか、簡単には区別できないこともあります。
「学校が嫌だから朝起きられない」と決めつけるのではなく、身体的な病気や睡眠の問題も含めて考えることが大切です。
6.学校に行けている子どもは、本当に大丈夫なのか?
私は今回、特にこの点を考えていただきたいと思っています。
朝起きられない問題というと、不登校の子どもを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、学校に通えていることと、健康上の問題がないことは同じではありません。
例えば、毎朝強い眠気や頭痛を感じながら、何とか起き上がって学校へ向かう中学生。
授業中は疲労感と闘い、帰宅するとぐったりしてしまう。
それでも、欠席せずに登校しているため、周囲からは問題がないように見えることがあります。
もちろん、こうした状態がすべて病気によるものとは限りません。
しかし、毎朝つらい状態が続いているのであれば、学校に行けているからという理由だけで見過ごすべきではないと思います。
「学校に行けたか」だけでなく、「どのような体調で学校に行っているのか」にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。
これは、不登校の子どもだけでなく、すべての小中学生に共通する視点だと思います。
7.朝が苦手な子どもは、何科を受診すればいい?
朝の不調が続く場合、まず相談先として考えたいのは小児科です。
特に、起立性調節障害や子どもの睡眠障害に対応している小児科であれば、より専門的な評価につながることがあります。
症状によっては、次のような診療科が適しています。
| 症状 | 主な相談先 |
|---|---|
| 朝の頭痛、立ちくらみ、動悸 | 小児科・小児循環器科 |
| 夜眠れず、朝起きられない | 小児科・睡眠外来 |
| 十分眠っても強い眠気が続く | 小児科・睡眠外来 |
| 大きないびきや睡眠中の呼吸停止 | 小児科・耳鼻咽喉科 |
| 強い不安、気分の落ち込みが続く | 小児科・児童精神科など |
起立性調節障害が疑われる場合には、横になった状態から立ち上がった際の血圧や心拍数を調べる「新起立試験」などが行われることがあります。
また、貧血や甲状腺の病気など、別の身体疾患が隠れていないか確認することも重要です。
朝の不調が繰り返される、学校生活に支障が出ている、以前より明らかに症状が強くなったという場合には、早めに医療機関へ相談することをお勧めします。
8.家庭でできることは「起こす努力」だけではない
では、保護者はどのように対応すればよいのでしょうか。
まず大切なのは、子どもの状態を観察することです。
例えば、次のような点を確認してみてください。
- 何時に眠り、何時に目が覚めているか
- 目は覚めているのに身体が動かないのか、それとも眠り続けているのか
- 起き上がると頭痛やめまいが生じるか
- 午後になると体調が改善するか
- 休日も同じ症状があるか
- 学校から帰宅した後、極端に疲れていないか
こうした情報は、医師が原因を考えるうえでも役立ちます。
生活習慣の面では、十分な睡眠時間の確保、朝の光、朝食、日中の適度な運動などが睡眠リズムを整える助けになります。
ただし、身体の不調が強い子どもに、無理に早起きや運動をさせることが適切とは限りません。
起立性調節障害などが疑われる場合には、医師の指導を受けながら対応することが大切です。
そして何より、子どもが朝つらそうにしているときには、「どうして起きられないの?」と責める前に、「どんなふうにつらいの?」と聞いてみてほしいと思います。
子ども自身も、自分の身体で何が起きているのか、うまく説明できないことがあります。
大人がその状態を理解しようとすることが、適切な支援への第一歩になるはずです。
9.地頭塾が大切にしたいこと
地頭塾では、学習塾とフリースクールを運営する中で、さまざまな生活リズムや体調の子どもたちと接しています。
朝から元気に活動できる子どももいれば、午後になってようやく調子が上がってくる子どももいます。
私たちはつい、学校の時間割に合わせて生活できることを当たり前だと考えてしまいます。
しかし、子どもの身体の発達や睡眠の仕組みを知ると、朝が苦手であることを単純に努力不足として捉えるのは適切ではないとわかります。
一方で、朝が苦手だからといって、生活習慣の改善が不要というわけでもありません。
大切なのは、本人の身体で何が起きているのかを理解し、その子に必要な対応を考えることです。
地頭塾が掲げる理念は、
「すべての子どもに、自分の未来を切り拓くための『礎』をつくる。」
というものです。
その礎となるのは、学力だけではないと考えています。
自分の身体の状態を知ること。
不調を誰かに伝えられること。
必要なときに助けを求められること。
そして、自分に合った方法で学び続けられること。
こうした力も、子どもが自分の未来を切り拓くために必要なものではないでしょうか。
朝が苦手な子どもを見たとき、私たち大人が最初に考えるべきことは、どうすれば無理やり起こせるか、ではないのかもしれません。
「この子の身体では、今、何が起きているのだろう?」
その問いから、子どもへの理解と支援が始まるのだと思います。
参考資料
※本記事は医学的な情報をもとに、子どもの身体への理解を深める目的で作成しています。特定の症状について診断するものではありません。症状が続く場合は医療機関にご相談ください。
関連記事「朝起きられない子どもへのNG言葉5選」では漫画で具体的なシーンを解説しています。こちらもどうぞご覧ください。















